精神安定、ストレス解消、疼痛緩和、自律神経調整などで、頭部のツボや特定の領域を中心に鍼施術を行うことを特に「頭皮鍼治療」あるいは「頭鍼治療」と呼ぶことがあります。
頭皮鍼と言っても、理論や術式はいくつか存在します。代表的なものに「焦氏頭鍼」「国際標準化方案」「朱氏頭鍼」「山元式新頭針療法」などがあります。
刺鍼部もまた、頭部にあるツボまたはツボを基準にした領域を定めたり、解剖学や生理学の観点で脳の機能局在や頭蓋骨の縫合部を目安にするなどさまざまです。
その中でも山元式頭皮鍼(YNSA)は、日本人医師の山元先生によって確立されたもので、海外の医師が山元先生から直々に学ぶために日本へ訪れるほど世界的に知られています。
筆者が中国の上海へ鍼灸治療の研修に行った際、「”日本鍼灸”は流派がたくさんあってうらやましい」などと皮肉る、ちょっと嫌味な中国人医師ですらYNSAについては評価していたのには驚きました。
中国では「頭皮鍼」は決して特別な治療法ではなく、特に脳血管疾患の後遺症や精神疾患、脳神経疾患、高齢者の認知症予防や進行抑制、アルツハイマーなどによく用いられているそうです。
それだけに、YNSAは術式が比較的シンプルにもかかわらず、患者さん自身に症状の反応や変化を自覚してもらいながら治療を進め、しっかりと結果を出すことの素晴らしさが評価されている理由ではないかと筆者は考えます。
朱氏頭鍼、焦氏頭鍼、国際標準化方案、YNSAのいずれもにも共通している部分があります。それは、古典や先人の理論や技法を参考に発展させ、合理的にしたり理論を覆すだけの根拠が無かったり、広く普及させるための技法の簡略化といった、何かしらの理由があったのではないかと筆者は推察します。そして何よりも諸先生の経験が大きいのではないでしょうか。
筆者が頭皮鍼を推奨する理由には①無駄な残痛感が生じにくい ②他の部位では得られない独特のスッキリ感 ③椅子に座ったままで、着替えも必要なく気軽に施術を受けられる ④頭皮鍼をしながら、他の部位の施術を同時に受けられる。などがあげられます。
鍼に低周波電流を流して筋肉や帽状腱膜を刺激する治療もあります。鍼治療の場合、皮膚表面ではなく筋や帽状腱膜に直接刺激をあたえるため、短時間で大きなリラクゼーション効果が期待できると考えています。
【関連リンク】
・頭皮鍼
・美容鍼
※参考文献:「慢性疼痛・脳神経疾患からの回復(加藤直哉(著)/山元敏勝(監修))」「頭皮鍼治療のすべて(淺野周(著))」「鍼灸学(上海科学技術出版社発行、中医国際教育教科書)」ほか。